雲丹と告白

中学の校訓は文武両道だった。勉学にまじめに励み、部活にも一生懸命取り組む。そのうえ課外活動も充実していればその人は学校の代表としてどこに出しても恥ずかしくない、優等生になれるでしょう。義務教育最後の3年間をこの「文武両道」を忠実に守り、卒業していった人がいる。私だ。成績は文句なしの学年一位、陸上の大会での成績は最底辺ではあったけれど、毎日外周を走り続けた努力は地域の人から「いつも頑張っていてすごいねぇ」と声を掛けられるたびに報われていた。生徒会長を務め、県の英語スピーチコンテストは2連覇。これ以上の優等生はそうそういないはず。今思い返すとほぼ完璧な学生生活だった。高校に行っても一生懸命な自分はいて、ディベートで着々と結果を残すようになった。勉強はできのいい方ではなかったが、好きなかも区に対しての努力はきちんとしていたと思う。結果は出なかったけれど部活に全振りしたとても充実した高校生活だった。中高を通して私の学生生活はほぼ完璧だったといえよう。家庭、友達、教師にも恵まれ思い残すなど何もないはずだ。そう、なにもないはず。

彼女が欲しい。というよりも「彼女がいる」に憧れている。自分のことが好きな人と一緒にいられるのってすごい素敵な話じゃない?純粋に羨ましい。中高の学校生活が「ほぼ」完璧だったのは恋愛を一度もしなかったからである。ほんっっとこれにつきる。結局人間シモなんだよなぁとか思ったりもするけどあながち間違いじゃない。ただ今回悩んでいるのはそんな下世話な話についてではない。今回自分が悩んでいるのは人からの好意や気遣いに気が付けない、相手を気遣うというのがどういうことかわからない、の2点だ。理由は何度目かわからない「彼女を作るチャンス」を自分が逃してしまったらしいから。らしい、と書いたのは知らぬ間に物語が始まって、知らぬ間に幕を引いていたからだ。[女の人の名前]から愚痴を少し聞いたけど、かなり人間的にひどいことをしたぞお前。って一方的に切り出されたときはサーって血の気が引いたね。何も心当たりがないのがどうしようもないところだけど。過去にも何度かこういったことがあったけど、そのすべてにおいて相手からの好意に正しくリアクションできなかった、相手を思った行動ができていなかったがために知らぬ間に過去の話に変わっていってしまった。さすがにいつまでも彼女なんていらねえ!と強がっているわけにもいかず今回のはかなり効いた。酔っ払いからのお説教と2時間ほどの人間関係改善講座を強制受講させられたというのもあるが、いよいよ気遣いがわからなくなったので悩んでいる。そもそも好意があるならストレートに伝えればいいじゃないか…と文句を言うも何も始まらないことはわかっているし、これに共感してくれるのが同類しかいないことがわからない年齢でもない。厳しい世の中じゃ。恋愛について悩んでいるというよりは好意を持った相手に気が付く方法と自分が誰かを好きになったときに気が付く方法、それからその正の感情を相手にきちんと伝える方法について知りたい。いやこればりばり恋愛について悩んでいるじゃねえか。仲のいい友達の人数は男性よりも女性の方が多いのに、どうして女心にこうも疎いのかねぇ…こんなことなら中高生の時に多少なりとも恋愛に時間を割り振るべきだった。

自分が文部科学大臣になったら新教育指導要領に「恋愛の指導」を追加することを誓いつつ恋愛を理解するいい方法はないものかと考えていると、去年から音信不通になっていた友達からメッセージが届いていたことに気が付いた。受信日は1月前の自分の誕生日。話してみると、彼氏に仲のいい男の人の連絡先をブロックさせられたらしく、コロナで実家に長期滞在することになったのを機に謝罪の意味を込めてメッセージを送ってきたらしい。数奇な世の中だ。彼女も自分がうまくリアクションできずに思い出となってしまった人物の一人である。夜も更けてきたので今日はこの辺で。