自販機

 新型コロナウイルスが流行して早1年。私は自粛生活に疲れてしまい、新しい趣味を探していました。ゲームもアニメも読書もボドゲもぜーんぶ飽きてしまった。やはり今必要なのは運動を伴う趣味。長らく椅子に座るか寝るかしかしていなかった毎日で体もなまっていることでしょう、手軽なウォーキングなどしてみようかと思い大好きな秋葉原に毎日徒歩で通うことにした。3日ほど連続で秋葉原に歩いて行ってぶらついて帰ってくる生活を繰り返していると、ふと秋葉原の自販機の多さが気になってきた。平常時では人でごった返しているため自販機の場所や数など風景の一部でしかないが、人っ子一人いない商店街では自販機の赤色がやけに目立つ。数えてみると一か所に最大9台、5メートル間隔で1台ずつなど異常なほどに自販機が密集している。さらにはその自販機のラインナップも偏っており、3列ある内の2列がすべてマックスコーヒーで埋め尽くされている自販機があったり、一番上の列が全てドクターペッパー、2列目が全てマックスコーヒーの自販機があったりする。面白くなってきて自販機の中身に注意して散歩してみると、おでん缶だけの自販機、ポンジュース専用の自販機、1列全部がモンスターエナジーの自販機、コカ・コーラの自販機なのに一つもコカ・コーラを置いていない自販機、逆に瓶のコカ・コーラしか販売していない自販機などあちこちの自販機に特徴があることが分かった。さらには値段についても、隣り合っている自販機なのに同じコーヒーの値段が10円違ったり、お店の中と外で炭酸飲料の値段が10円違ったりと値段についてもそれぞれ場所と台で特徴があることに気が付いた。あまりにも面白く、あまりにも毎日が暇なもので、数日歩いているうちにとうとう秋葉原にある自販機全ての位置と大体の商品ラインナップ、それらの価格が把握できてしまっていた。ここまで来てしまうと自販機のラインナップが変わることに対しても敏感になる。コーヒーの種類が一つ減っている、オレンジ味の水が新しく追加された、あったか~いの列が丸ごと消えてつめた~いに変わっている、など夏が近づくにつれて様々なものが入れ替わっていく。このままでは秋葉原の自販機に置いて行かれてしまうと焦った私はすべての自販機を写真に収め、記録をとっていくことにした。私は自販機の写真を大量にとる奇人になってしまった。緊急事態宣言が一時解除された今年の6月末から7月にかけては秋葉原にも人が戻り始めたため昼間に自販機の撮影をすることが難しくなっていた。そもそも秋葉原のにある自販機をすべて撮影するには4時間ほど必要であり、炎天下の中あちこち歩き回って写真を撮るのはかなりの重労働だ。そんなときは夜21時ごろに秋葉原に出かけ、ある程度涼しくなってから写真撮影をしていた。夜の秋葉原は違ったジャンルのメイドさんが呼び込みをしていたり、明らかな輩がたむろしていたりと昼間とは違った街の顔が見れた。それでも時短営業が続いていたため23時には誰もいなくなっていた。

 私の新たな趣味が無駄なものだとは言わせない。モンスターエナジーは大抵自販機では210円で販売されているが、秋葉原の自販機では180円で売っている自販機が2台だけある。そのうち片方は秋通称「アキバ」として一番有名な大通りに面しているマツモトキヨシの左側面の路地に入るとすぐに見つかるため興味がある人はぜひ行ってみてほしい。味は普通の自販機のものと全く変わらない。秋葉原にある自販機にはやたらとドクターペッパーマックスコーヒーが売られているが、そのどちらも「オタクの聖地」秋葉原らしい理由がちゃんとある。秋葉原が舞台となっているアニメ『シュタインズ・ゲート』では主人公の岡部倫太郎がドクターペッパーを「選ばれしものの知的飲料」として愛飲している描写がことあるごとに描かれている。『シュタインズ・ゲート』は秋葉原の町おこし企画として昔はコラボをたくさんしており、その名残が「世界のラジオ会館」の1階と5階にある『シュタインズ・ゲート』ラッピング自販機に残されている。昔はこの特別仕様の自販機から限定のTシャツが買えたらしい。マックスコーヒーについても、『木更津キャッツアイ』というテレビドラマシリーズで一躍有名になったという背景があり、その聖地のひとつが秋葉原なのだ。最近の作品で言えば『俺の青春ラブコメはやはり間違っている』でたくさん登場するマックスコーヒーだが、アニメの聖地と化した秋葉原がそれにあやかってマックスコーヒーをたくさん置いているという説もある。確かに秋葉原駅つくばエクスプレスが通っており、マックスコーヒー発祥の地である千葉県にとって秋葉原は東京の玄関口かもしれないが、それにしても千葉県民はマックスコーヒーが大好きなようだ。

 先月も11月分の秋葉原自販機データを写真に収めてきたが、悲しいことに12月はまだ撮影が終わっていない。データが集まったらそれらを地図にして公開しようと考えているためその時はぜひ一度見てみてほしい。秋葉原に遊びに来た時に「一番安くUCCのブラックコーヒーが買える自販機はいったいどこにあるんだろうか?」「がぶ飲みシリーズが飲みたい!秋葉原にはあのやっすいメロン味のジュースを置いている自販機はあるのかな?」といった疑問は私の地図であれば解決してくれるでしょう。